猪突猛進ハリネズミ - 私空模様。―10話―
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私空模様。―10話― 

晩夏2



俺達と同じ制服に身を包んだ生徒が数人いる帰り道を梓と二人で歩く。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             
脳裏には梓と帰ると伝えた時の泣き出しそうな京子の顔が浮かんで離れず、眉根を寄せてしまう。
けれど梓は俺のそんな様子を気にもせず、俺に腕を絡め、笑みをこぼしている。
「たぁくんがあの人よりアタシを選んでくれて嬉しいなぁ」
軽やかな声はより一層脳裏の京子の表情を暗くさせる。
「別にお前を選んだ訳じゃない……こういうことするのはもう止めろ」
俺がため息混じりに告げると、梓から笑顔が消えた。
「なんで……そんなこと言うの……」
寂しげな声に良心が苛まれるが、俺は梓に対して言葉を続ける。
「お前も、俺も、もうあの時みたいに幼くないんだから小学校のころの約束なんて」
「時効みたいに言わないで」
俺の言葉は言い終わる前に梓の言葉によって遮られた。
腕に絡められた梓の腕の力が強まる。
「梓……」
彼女をできるだけ傷付けないようにと考えると言葉が続かない。
「たぁくんは分かってるはずだよ。アタシがたぁくんとの約束にどれだけ救われてるか」
そう言って梓は縋るような瞳で俺の目を見つめてくる。
「それは……」
俺と梓が結婚しようなどと約束をすることになった経緯を思い出せば、その言葉を否定できない。
「たぁくんは……たぁくんだけはアタシから離れていかないで」
梓の切実に乞う声に俺は頷くことも断ることもできなかった。

********

始業式から1週間後。
結論から言うと梓はクラスから孤立した。
転入初日であんな態度とれば当たり前というか、元より二学期というそれぞれグループが出来上がっていた後ということもあり、彼女に声をかける人はいなかった。
彼女はそんなことを気にしている様子もなく、休み時間や放課後になるとすぐさま隆也の元へと行く。
今日も隆也のクラスを覗けば、彼女は平然とした様子で隆也に話しかけていた。
隆也を呼びだすことに一瞬躊躇するが、扉付近にいた人に声をかける。
「雨宮ー。橘さん来てるぞー」
その声であたしに気付いた二人がこっちを見て、隆也よりも先に梓があたしの方にやってきた。
「アナタまた来たの?たぁくんに何の用?」
ここから先は通さないとばかりに扉の中央に立ちながら、睨みつけられる。
最初から変わらない敵意むき出しの態度に少し慣れてきたけれど、やはりムカつくものはムカつく。
「それはあんたの方でしょう。あたしは借りてた教科書を返しにきただけよ」
あんたと違って理由があると言わんばかりに梓に教科書を見せると、梓はだから何と言いたげな瞳であたしを見た。
「ふぅん?今後は貸し借りするのも遠慮してね」
無邪気な笑顔で放たれる傍若無人な言葉に口角が引きつってしまう。
「あんたにそんなこと言われる筋なんて無いと思うんだけど」
「何回も言ってるけど、たぁくんはアタシのなの」
何度したか分からない言い合いの後、二人で睨みあう。
そんな火花散るあたし達の間に隆也が梓を少し押しのけて入ってきた。
「梓、いい加減にしろ」
「むぅ……」
隆也が注意すると、梓は気に入らない様子の声を出した。
隆也があたしを庇うような構図になったのが嫌なのだろう。
「隆也どうにかできないのこの子」
「どうにかできるならしてるよ」
教科書を返しながら聞けば、溜息交じりの返される。
あたしが見えないところで隆也も苦労しているようだ。
(隆也が言って聞かないなら意味無いだろうけど……)と思いながら梓の方を見やる。
「あんたも、あんまり自分の気持ち押し付けてるんじゃないわよ」
「大きなお世話よ」
あたしのアドバイスは一言で突っ撥ねられた。反応が予想通りすぎて怒る気力も湧かない。
「あんたがそれで良いならいいけど……じゃあ戻るわ」
「梓もそろそろ戻れ」
隆也の返答だけ聞いて自分の教室に戻ろうと思っていたのに、隆也が梓に話しかけたせいで戻るタイミングを逃してしまう。
「えー、この人と一緒に戻りたくない」
それはこっちの台詞だという言葉を必死に飲み込んだ。変に言い合って教室に戻るのを遅らせたくはない。
「そんなこと言っても時間は時間だろ」
隆也の追い打ちの言葉を聞き、梓は時計に視線をやる。
「……はーい」
確かに戻る時間だと納得したのか梓は渋々と頷いた。
今度こそ戻ろうと振り返ると、教室に戻ってくる雪さんと目が会う。
「京子さん来てたんだ」
「隆也の教科書返しに」
問いかけに隆也の教科書を見ながら答えると、雪さんは思い出したように「あぁ」と声をもらした。
「そういえば昨日借りてたね」
「そう。で、もう戻ろうとしてたとこ」
「あ、戻る前にちょっといい?」
足を進めようとしたところを呼び止められて、雪さんを見るとポケットから何かを取り出そうとしているようだった。
隆也と梓も気になるのかそんな雪さんを見ている。
「じゃん!遊園地のチケット貰ったから一緒に行かない?」
そう言いながら取り出したのは確かに遊園地のチケットだった。
隆也は既に誘われた後なのか「それのことか」と呟いている。
「行きたい行きたい!」
絶叫系のアトラクション大好きなあたしはテンション上がり気味に二つ返事で答えた。
遊園地なんて久しぶりだ。
「じゃあ先にチケット渡しとくね。花音ちゃんもさっき誘ったから」
そう言ってチケットを1枚手渡される。
残ってる1枚は雪さん自身のかなと思っていたら、それは梓の前に差し出される。
「梓ちゃんも一緒にどう?」
そう穏やかな笑顔で雪さんは梓を誘った。
「……は?」
「な、雪さん!?」
梓は自分が誘われると思っていなかったであろう素っ頓狂な声を出し、あたしも思わず雪さんの名前を呼んでいた。
驚かれる反応は予想通りなのか雪さんは笑顔を崩さない。
「隆也の親戚の子ならさ、オレは仲良くしたいなって思うんだけど。ダメかな?」
「アナタ、アタシが京子に突っかかってるの見てないわけじゃないでしょう」
梓に不審そうな目で見られ、雪さんは流石に困ったように眉を下げる。
「んー……そうだけどさ。まだお互いのことちゃんと知らないだけだと思うんだよね」
「ちゃんと知らない?」
「そう。だから一緒に出かけて話してみたら案外仲良くできたりするんじゃないかなーって」
そう笑顔で言う雪さんにあたしと梓、隆也も驚きすぎて何も言えなくなる。
「っと、そろそろ休憩時間終わっちゃうからまた後で話そうか。引き止めてごめんね」
「あ、うん。また後で」
雪さん達が教室に入って行くのを見た後、驚きの冷めやらぬ状態であたし達も自分の教室へと足を進める。
「……彼っていつもああなの?他人のことにヅカヅカと」
梓は少し嫌悪感を滲ませた表情で私に質問をしてきた。
「そうね……あの人の中で良いことだと思ったらやりすぎちゃうとこはあるかもしれない」
隆也とあたしをくっつけようとしてることとかを思えば、今回のことも雪さんらしくて少し笑ってしまう。
「アナタって」
梓が何かを言いかけたところでチャイムが鳴り響いた。
「ああ!チャイム鳴っちゃった」
梓が何を言いかけたのかは聞かず、二人で廊下を走った。


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