猪突猛進ハリネズミ - 私空模様。-8話-
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私空模様。-8話-  

盛夏5




「相変わらず隆也との勝負がつかない!」
ガヤガヤと人が賑わう通りの中で京子が悔しそうに眉を寄せる。
「俺に勝とうとするのを、そろそろ止めろ」
ため息混じりで言えば京子は口を尖らせて、不機嫌を露わにした。
「偉そうに言ってるけど金魚すくいも射的も引き分けでしょ!」
落ち着いた柄の浴衣で普段よりも大人らしい雰囲気なのに、仕草や言動が子供らしくて思わず苦笑をこぼしてしまう。
俺が笑ったことを煽られたと勘違いしたのか、京子は俺の袂を掴んで一つの屋台を指さす。
「次はヨーヨー釣りで勝負!」
拒否権など無いことを知っている俺は京子に引っ張られるがままに屋台へと足を向ける。
雪と花音ちゃんはそんな俺たちを微笑ましそうに見ていた。


「また引き分け!!」
掬い終わったヨーヨーの数を数えて京子が納得のいってない声をあげる。
「お前しつこいよ」
「なら隆也が負ければいいんだ!」
「手加減したら怒るくせに……」
京子の負けず嫌いっぷりに呆れながら言えば、当然とでも言いたげに京子は胸を張った。
俺の口からはため息こぼれる。
「……雪からもそろそろやめろって言ってやってくれ…って雪?」
傍にいると思っていた雪がいないことに気付いて辺りを見渡すが、それらしき人物は見当たらない。
「花音ちゃんもいない……?」
同じように辺りを見渡して、見つからない人影に京子が少し寂しげな顔をした。
「あたしと隆也をくっつけようとするなんて馬鹿だ」
京子の声が少し低くなる。
「……辛いか?」
聞くべきか少し悩んでから発した質問に、京子は目を伏せた。
「…………ちょっと、だけね」
普段聞くことのない京子の弱音に、俺は目を丸くする。
「珍しく素直なんだな」
「あれ?なんでだろ?おかしいねー」
自分の言葉をごまかすように京子は無理に笑ってみせる。
「そろそろ限界なんだろ。前から言ってるけど俺の前だけでもいいから素直になっとけ」
言いながら京子の頭に手を置く。
「ちょっと、あたしの頭に手を置くな!」
俺の手を退けようと京子の手が伸びてくるが、力など全然入っていない。
「ちょうどいい高さなんだよ」
「……だからといって撫でる意味が分からない」
恥ずかしさを堪えるかのように京子は俺の手に添えた両手にキュッと力を込める。
「ならクシャクシャにしてやろうか」
手に力を込めて、髪が完全には崩れない程度に乱暴に動かした。
「ちょ!やめてよね!せっかく綺麗にしたのに!」
「それがムカつくんだよ」
突然の言葉の意味が分からないと、京子は不思議そうな顔をして俺を見上げる。
「振り向かないやつの為に綺麗になったりするな」
そう言えば京子の目は見開かれ、今にもこぼれてしまいそうな涙が溜まっていく。
「……そんなつもりはなかったんだけどな。ちょっと、だけね、さみしかったん、だよ」
京子が無理して笑うと、夜空に花火が咲いた。
辺りは歓声と花火が咲く音で包まれる。
周りと同じように空を見上げようとした京子の腕を掴んで、人々の間をすり抜けていく。
「隆也?」
京子の呼ぶ声には答えず、道を逸れて人がいない方へと歩く。
人混みから少し離れていて木に囲まれた場所にたどり着き、京子の腕を掴んだまま振り返る。
暗くてちゃんと顔は見えないけれど、京子が不思議そうに首を傾げているのが分かる。
「ここなら誰にも見られないし、花火で声も聞こえないだろ。泣いとけ」
俺の意図を理解した京子が俺から離れようと掴まれている腕を振るが、強く掴んで制する。
「ここでも隆也は見てるから……!」
嫌だと言う京子の頭を引き寄せて、肩に埋めさせる。
「こうやって俺の肩で泣いたら俺にも見えないだろ」
「……馬鹿!」
「あぁ」 
力がこもって固い背中を解すように優しく叩いていると、耳元に小さな声が届く。
「ほ、……んとに、馬鹿っ……ふ……くぅ……ひっく…」
嗚咽の中の罵りに苦笑する。
「そうだな……俺も馬鹿だと思う……」
人知れず泣く京子の傍にいるのが雪や他の誰でもない自分であることを、嬉しいと思ってしまっている自分に気が付いてしまった。
震える身体を思いっきり抱きしめてしまいたのを必死に堪える。
「ごめん」
俺の小さな声は花火の音に掻き消された。

********

空に大輪の花が咲いては散っていく。
どこかで同じように花火を見上げているであろう二人の姿が脳裏に浮かんだ。
「京子さんと隆也さん……うまくいってますかね」
少しだけ心配な気持ちが言葉になって零れる。
「まぁ、京子さんが恋愛感情ないところからだと長期戦だからな」
雪さんの言葉に私が焦っていたことに気付かされた。
「あ、そーですよね。先を急いじゃダメですね。反省しなきゃ……」
京子さんも恋愛は人それぞれだって言っていたことを思い出す。
ーたぶん、私は京子さんと隆也さんに自分を重ねてた。
二人のためじゃなくて自分のために応援してたことに気付いて恥ずかしくなる。
血の気が引いているであろう私を見て、雪さんが微笑んだ。
「花音ちゃんのそういう、自分の悪いところ認めれるとこ好きだな」
唐突の言葉に私は目を丸くする。
「ふぇ!?な、何言ってるんですか!」
「ほんとのことを言ったの」
慌てふためく私とは対象的に余裕な様子で雪さんは言葉を返してくれた。
嬉しさで何も言葉を発せずにいると、雪さんの手が私の手へと伸び、指が絡むように繋がれる。
驚いて雪さんの顔を見れば、頬が少し赤くなっていた。
「今まで寂しがらせてごめん」
眉根を下げて申し訳なさそうに伝えられる言葉に涙が零れそうになる。
「……嬉しいです」
色んな言葉が思い浮かぶのに、震える声ではそれだけしか発せなかった。
それでも雪さんは安心したように表情を緩めてくれる。
「よかった」
優しい声音に心が満たされていく。
「……雪さん」
「ん?」
「私、今すごく幸せです。だから京子さんたちにも幸せを返したい」
今度こそ、ちゃんとこの気持ちのお礼がしたい。
繋いだ手の指先に力を込めると、同じように雪さんの手にも力が籠る。
「そうだね」
雪さんは優しい顔で頷いてくれて、自然と私の頬も緩んだ。

********

花火が終わり、大半の人が帰路につく。
「やっと見つけた。バカップル」
人の流れから少し離れた場所に立っていた私達は隆也さんに声をかけられた。
「もう見つかっちゃった…って京子さん髪型少し崩れてるけど、どうしたの?」
雪さんの言葉につられて京子さんを見やれば、確かに髪が少し乱れている。
「えっ!?あ、と、ちょっとはしゃぎすぎちゃっただけだから大丈夫」
答えながら京子さんは慌てて、髪を整えるように自身の頭を撫でた。
「そっか、隆也が何かやらかしたのかと思った」
おどけてみせる雪さんに隆也さんが呆れたような視線を向ける。
「雪は俺のこと何だと思ってんだ」
「何だろねー」
楽しそうに話している二人を見ていると、京子さんが私の隣へとやってきた。
「花音ちゃん花音ちゃん」
雪さん達には聞こえないくらいの小声で話しかけられる。
「何ですか?」
私も小声で聞き返せば、京子さんが眉根を下げて「……ごめんね」と呟いた。
私が謝るならともかく、京子さんに謝られるようなことは心当たりがない。
「えっと……謝れられるようなことありましたっけ?」
問いかけると、京子さんは目を細めて微笑んだ。
「それは秘密」
京子さんの返答は更に意図が分からないもので、私は首を傾げる。
「もう、可愛いなぁ……!」
京子さんは具体的なことを言わないまま、私に抱きついてくる。
私もそれ以上は何も聞かずに、京子さんを抱きしめ返した。

どこか今までとは少し違う夏。
それでも、これまでと同じように過ごせると、この時の私は思っていた。


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