猪突猛進ハリネズミ - 私空模様。-6話-
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私空模様。-6話- 

盛夏3




「ついてないなぁ……」
もうすぐ夕方だというのに明るい空を見上げながら私は呟く。
放課後、日誌を書いて職員室に行けば、一クラス分のノートの山を担任に運んでほしいと頼まれてしまった。
確かに教室には戻るつもりではあったのだが、頼まれてしまった雑用に気分が沈んでしまう。
窓から見える晴れやかな空が今の私には眩しく見えて、まるで京子さんのようだと思った。
どうして京子さんじゃなくて、私なんかを好きになってもらえたんだろうか。
そんな疑問が浮かぶと、胸の内に言いようもない不安広がり、涙が零れそうになる。
「……雪さん」
思わず声を零すと、すぐ後ろから足音が聞こえた。
不思議に思って振り返ると、雪さんが驚いたような顔をして立っている。
「どうして……」
今は部活中ではと私の言葉が続く前に、雪さんが慌てて手を振り、言葉を遮った。
「えっと、休憩中にたまたま花音ちゃんを見かけたから声をかけようとしただけで、別に驚かせようとしてたとか、そんなことはなくて!」
早口で弁解する雪さんの様子が面白くて、沈んでいた気持ちが嘘のように自然と頬が緩んだ。
「そんなに必死だと驚かせようとしてたって言ってるみたいですよ?」
からかうように言えば、雪さんの手の動きがピタッと止まり、気まずそうに視線が逸らされる。
「驚かせようとしてたんですね……」
本当に驚かせようとしてたことに苦笑しつつも、素直な反応が可愛いと思ってしまう。
「上手いこと足音消して近寄ってたんだけどなぁ。何で俺が後ろからきてるの気付いたの?」
バレたことに吹っ切れた雪さんから質問が投げられる。
「え?あっ……」
雪さんからは気付かれたように見えたんだと一人で納得しつつ、不安になってたなんて言えるはずもなくて言葉を探す。
「気付いてたわけじゃなくて、その……会いたいなと思って名前を呼んだだけで……」
なんとか思いついた言葉を口にしたけれど、言ってて恥ずかしくなり、だんだんと声が小さくなってしまった。
チラリと雪さんを見やれば頬がほんのり赤く染まっている。
少しの沈黙の後、雪さんは柔らかく微笑んだ。
「俺も、花音ちゃんに会いたかったよ」
優しい声音で紡がれた言葉は私の中の不安を簡単に消し去ってくれるようだった。
「嬉しいです……」
甘い空気に耐えられなくて俯けば、私の腕の中のノートを半分以上雪さんが取っていく。
「これ教室に運ぶんだろ?手伝うよ」
「えっ、でも部活は?」
「ちょっと遅れるくらいなら大丈夫。ほら行こう」
そう言うと雪さんは歩き始め、私も慌てて後を追う。
私が雪さんの隣に追いついたのを見て、雪さんは口を開いた。
「そういえば、京子さんに隆也のこと聞けたの?」
「あ、はい。京子さん好きな人はいないそうで、隆也さんのことも恋愛感情は特に無さそうでした」
昼の京子さんとの会話を思い返しながら雪さんの問いかけに答える。
「んー、まぁ、好きな人いないなら隆也の応援していっか」
「はい。大丈夫だと思います」
あの二人なら関係が悪くなることはないだろう。そう思い、私は雪さんの言葉に頷いた。
「そうなると、とりあえず京子さんに隆也を意識してもらうところからか」
「そうですね。どうするのが良いんでしょうか……」
二人で唸った後、雪さんが思い出したように口を開く。
「……明後日、夏祭りだし。そこで何かできないかな」
確かに仲を進展させる為に何かしらイベントに乗じるのは良いかもしれない。
「だったらとりあえず四人で行って途中で二人ではぐれてみましょうか」
そう提案したところで教室に辿り着き、教卓の上にノートを置く。
「そうだな。それ以外も機会があれば二人にするように仕向けてみよう」
話がまとまったところで、雪さんは部活に戻るからと「また明日」と挨拶をして歩き始める。
もう一緒にいれないのかと思ったら、無意識にその背中に手が伸びそうになったが、雪さんに届く前に引っ込めてしまう。
私の様子には気付かずに教室を出ていく姿を見送った後、深いため息をついた。
「邪魔しちゃ悪いし、仕方ないよね……」
拒まれたらと悪い想像をする臆病な自分が、正当のような建前を囁く。
それでも心の虚しさは消えてはくれなかった。


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