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盛夏2「花音ちゃんお昼だよー!お弁当だよー!早く食べよー!」 お昼休みの時間。京子さんはお弁当を持って私の前の席に座った。 なんてことない話をしながら、2人でお弁当を広げて、ご飯を食べ始める。 話が一区切りしたところで、私は雪さんとの会話を思い出した。 「そういえば、京子さんに聞きたいことがあったんです」 私の言葉に京子さんが少し不思議そうな顔をする。 「ん?そーなの?」 そう言って私の質問を待つ京子さんを見ると、恥ずかしさが込み上げてきた。 喉で止まった言葉を何とか手繰り寄せる。 「……その、京子さんって……好きな人とかいるんですか?」 やっと絞り出した言葉に京子さんが驚いたのか、ちょうど飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。 「だ、大丈夫ですか?」 堪えた反動で噎せてしまった京子さんを心配して、立ち上がろうとしたが、京子さんに手で制される。 「……だっ……大丈夫だから……」 そう言った後、一度深く息を吐くと落ち着いたようで、京子さんが私に向き直る。 「そこまで驚かれるとは思ってませんでした……」 正直な言葉を漏らせば、京子さんが少し恥ずかしそうに微笑んだ。 「あ、うん、ごめん。花音ちゃんから聞いてくるなんて珍しかったから」 その言葉にどれだけ今まで自分のことでいっぱいいっぱいだったか思い知らされる。 「や、こちらこそ急にごめんなさい」 そう謝った後に、今までとは違うんだと自分に言い聞かせる。 「でも京子さん、私と雪さんのこと応援してくれたから、私も京子さんが好きな人いるなら応援したいなぁって思いまして」 私の気持ちを伝えると、京子さんは少しホッとしたように顔を緩ませた。 「なんだ、そういうことかぁ」 ボソッと呟かれた言葉の意図が分からなくて、私は首を傾げる。 「どうかしました?」 訊ねると京子さんは首を横に振る。 「いや、なんでもないよ。……それにあたし好きな人…いないしね」 そう言いながら京子さんは少しだけ寂しそうに笑った。 その様子と返答に、なぜか違和感を覚えてしまう。 「そうなんですか?」 感じた疑問はポロッと口から零れ出た。 そんな私の様子に京子さんが苦笑する。 「そんな驚くことでもないでしょう」 「確かに話聞かないなぁとは思いましたけど……」 さっきの少し寂しそうな顔は、本当に好きな人がいない人の顔なのだろうか。 小さなモヤモヤを感じていると、脳裏に隆也さんの顔が浮かんだ。 「隆也さんはどうなんです?」 思いついたまま問いかければ、京子さんが声を出して笑った。 「隆也?無い無い。まあ、良いやつだとは思うけど恋愛感情なんかで見たことなんてないよ」 本当に意識なんてしたこと無いのだろうなと分かる反応に思わず苦笑してしまう。 けれど、まだ会話を終わらせてはいけないと、頭の中でグルグルと次の切り口を考える。 ちらりと京子さんを見やりながら、私は口を開いた。 「……それじゃあ、恋愛感情で見てみるとしたら……どうなんです?」 ここで無いと断言されてしまえば、応援しようにも手の施しようがないのだけれども。 京子さんが答えを考えるそぶりをし、それをまるで自分が好きな人の反応を待つような気持ちで見守る。 「…………考えたことないから分からないや。でも向こうも、あたしへの恋愛感情なんかないと思うけど?」 「え?そうなんですか?」 曖昧な答えにホッとしたのも束の間、私達の考えと真逆な意見が飛んできて、思わず聞き返してしまう。 そんな私の様子に京子さんが不思議そうにこちらを見やる。 「なんで疑問形?」 「あ!いえ!なんでもないです!」 疑問に思った理由を言えるわけもなく、私は慌てて手を振って誤魔化した。 「そう?ならいいけど……」 深くは聞かないでいてくれるらしい京子さんの様子に、そっと胸を撫で下ろしていると、「それよりも」と話が変わった。 「花音ちゃんの方こそ、少しは進展したの?」 そう問われてしまい、私は返答に詰まる。 そんな私の様子で察したのか、京子さんがため息をついた。 「そろそろ一ヶ月も経とうとしてるのに、手すら繋いでないって……」 呆れたと言いたげに京子さんは首を横に振る。 「だって、機会とか無いですし……」 「そりゃ未だにあたしと一緒に帰ってたら無いでしょうね」 「雪さん演劇部もありますし……」 「終わる時間までくらい一緒に待つくらいするわよ」 いつも頭の中で回っている言い訳を零すけれど、全て京子さんに跳ね除けられる。 それでもまだ頭の中で言い訳を探している弱腰な私を見て、京子さんはまた、ため息をついた。 「花音ちゃんが求めれば、雪さんは返してくれると思うけどなぁ」 何気ない京子さんの呟きがチクリと心に刺さる。 雪さんは私のことを大切にしようとしてくれてるんだとは思う。 だからこそ、距離を感じて寂しいなんて伝えて良いものかと迷う私がいる。 何も言えなくなった私を見て、京子さんは少し申し訳なさそうに、眉尻を下げた。 「まぁ、あれやこれや言っちゃったけど、恋愛なんて人それぞれだものね。花音ちゃん達は花音ちゃん達にあったスピードで進めばいいと思うよ。もしそれで協力してほしいことがあるのなら手伝うし」 励ましそうとしてくれる京子さんの言葉はとても優しくて、きっと正しい。 ただ、今はその正しさが胸に沁みる。 私が京子さんみたいに強ければ、こんなことで不安になったりしなかったかもしれない。 「……はい」 弱い私は心の内でないものねだりをしながら、不格好な笑みを浮かべることしかできなかった。 コメント
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