猪突猛進ハリネズミ - 私空模様。-3話-
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私空模様。-3話- 

梅雨3




「さて、遊びにでかけるかーって意気込んでみたけど……この雨じゃねぇ……」
校舎の出口で京子は雨が降る空を見上げた。
どんよりと重たい空からは豪雨でないにしろ、傘がないと辛い量の雨が降っている。
「今日はやめといた方が良さそうだねー」
「ですよね」
雪の言葉に花音ちゃんが安堵したように同意した。
「まあ、帰るにしたって俺、傘持ってきてないんだが」
今朝の天気予報は一日曇り空で雨は降らないと言っていた為、傘など持ってきていない。
それは京子と雪も同じようで。
「え、あたしもないんだけど」
「え?おれもないよ?」
と、俺の言葉に続いた。
どうしようかと沈黙が訪れる中、花音ちゃんがそっと手を挙げる。
「一応私は置き傘してたの有りますけど……」
花音ちゃんの言葉を聞いて考える様に俺は顎に手を当てる。
「一つの傘で四人は無理だな」
「そうね……花音ちゃんを濡れさすのは絶対ダメとして後一人か……」
京子は俺の言葉に頷いた後、雪と向かい合った。
「うん。雪さん。花音ちゃん送っていってくれる?」
綺麗な笑顔を浮かべて、京子は雪の胸を人さし指でつく。
「へ!?や、そこは京子さんだろ!女の子なんだし濡れちゃダメだよ!」
自分の名前が出されると思っていなかった雪は慌てて、京子の手を離した。
花音ちゃんも慌てて、京子の制服の裾を掴む。
「そうです!京子さんが濡れるなんてダメです!」
二人とも本当に京子を案じての言葉だろうが、京子の気持ちを考えるととても痛々しいと思った。
京子を帰らせるべきか、雪を帰らせるべきか、悩んで口を出せずにいると、京子が俺の肩に手を置く。
「いや、あたし隆也とちょっと話があってさ。隆也と帰りたいんだわ」
「きょ、京子さん!」
あくまでも一緒に帰ろうとしない京子の様子に花音ちゃんが京子の考えに気付いたのか、あたふたと慌て始める。
その様子を見て、京子は意地悪げに笑みを浮かべた。
「花音ちゃん。罰ゲームのこと忘れないでねー」
「なっ……え、ほんとに?」
心の準備が出来てないとばかりに自信無さげな花音ちゃんの声に雪が不思議そうな顔をした。
「罰ゲーム?何それ?」
「いやぁぁ!雪さん反応しないでー!」
何か遊びでもしてるのかと混ぜてほしそうな声を出す雪を花音ちゃんが必死に誤魔化そうとする。
「なるほど。罰ゲームか。それはそれで楽しそうだが」
京子が花音ちゃんの背中を押すための虚言か何かだろうと一人で納得していると、花音ちゃんが泣きそうな顔になった。
「なんで隆也さん話通じてるのー!?」
そんな俺たちの様子を見て、京子は楽しそうに笑うと、雪と花音ちゃんに対して手を振る。
「とにかく安全に帰るのよー」
もう見送る態勢になってしまった京子を見て、雪は小さくため息をつき、花音ちゃんに視線を移す。
「……こうなったら京子さん聞かないし、おれらで帰ろうか」
雪の言葉に2人で帰ることを意識したのか、花音ちゃんの頬が少し赤くなった。
「……はいっ」

それから花音ちゃんが教室の傘立てに置いていた置き傘を取ってくると、雪が傘をさし、相合傘をして二人で帰っていく。
それを見送った後、俺と京子は無言のまま、雨が降り続ける空を見上げた。

********

おれと花音ちゃんの間で傘を持つ手が緊張で微かに震える。
「梅雨ってやっぱ天気読めないよな。朝はけっこう晴れてたのに」
何か話題をと、安定の天気の話をしてみた。
「そ、そうですね。置き傘してるとけっこう役立ちますよ?」
返してくれる花音ちゃんを見ようと視線を向けて、その近さにドキリとする。
「おれも、しよう、かな」
慌てて視線を逸らし、不自然に言葉を切らしながら話してしまい、自分の挙動不審さに顔を覆いたくなる。
けれど、花音ちゃんはそんなおれの様子に気付いてはいないようで。
「そしたら雨が降っても四人で帰れますし、ね」
普通に返事をしてくれる。
そのことに安堵しながら、2つの傘で四人で帰ることを考えて、少し嫌な想像をしてしまった。
「……そしたらおれと隆也の相合傘になるのか……それはやだなぁ……」
そう答えると、花音ちゃんは少し不思議そうに首を傾げた。
「そうですか?二人仲良いから相合傘ぐらい平気なんじゃないですか?」
平気なのは平気なんだけども。京子ちゃんと花音ちゃんに見られるというのが問題というか。
「……男二人で相合傘は見た目的にヤバイだろ」
そう答えると花音ちゃんが声を漏らして笑った。
「ふふ。京子さんがきっと囃したてますね」
想像して穏やかに笑う花音ちゃんに視線を奪われる。
「……笑ってくれた」
「……え?」
思わず漏らしてしまった声を拾われてしまい、やってしまったことを知る。
「あ、いや……おれと二人の時って花音ちゃん、あんまり笑ってくれること無いから、嫌われてたりするのかなーって思ってて」
頬を掻きながら、答えると花音ちゃんに制服の裾を掴まれ、立ち止まった。
「ち、違います!嫌ってなんかいないです!むしろ好きなんですっ……!」
「え?」
慌てて開かれた口から紡がれる言葉が、あまりにも自分に都合が良すぎて聞き返すと、花音ちゃんの顔が赤く染まる。
「あ……あの!違うんです!今の忘れてください!」
言って、花音ちゃんが手で自身の顔を覆ってしまう。
その様子を見て、やっとこれは現実だと実感できた。
そっと、顔を隠している手に触れるけど、手は動いてはくれない。
「やだよ。おれは花音ちゃんのことが好きなんだ。好きな子から好きって言われて、忘れたりできない」
意を決して言葉を告げると、手で顔を隠すことも忘れて、花音ちゃんがおれを見上げてくる。
「へ?」
驚きに揺れる瞳に、恥ずかしさが込み上がってきた。
「あ、や、違うんだったら、ただの勘違い野郎でめっさ恥ずかしいやつなんだけどさ」
勘違い野郎以前に、さらっと告白してしまったのではないかということに気付いて、まともに花音ちゃんの顔を見ることができなくなる。
それでも、花音ちゃんの手は傘を持つおれの手に重ねられた。
「……違うことないです。雪さんのこと好き、です」
か細い声で聞こえた言葉に鼓動が高鳴る。
「……やっべ。嬉しいのと恥ずかしいので……なんか変な感じだ」
足が浮いてしまってるのではないかと思うくらいに地についている感覚がない。
ただ、重ねられた手からぬくもりが伝わってきて夢じゃないと教えてくれる。
「私も…です。……京子さんにはお礼言わないといけません。ずっと応援してくれてましたから」
京子さんの名前が出て、やっと気持ちが少し落ち着く。
そして脳裏に隆也の姿がよぎった。
「あー。おれも隆也にお礼しないとなー…」
そう言葉を漏らすと花音ちゃんが小さく笑う。
それを合図にまた2人で歩み始めた。
「今度二人でサプライズでもしましょうか」
先を思って楽しそうにする花音ちゃんの様子に、そっと目を細める。
「そうだな。喜んでくれるといいな」
京子さんも隆也も、そして花音ちゃんが喜んでくれる光景を、まだ雨の降る空に思い描いた。

********

いくら待っても、雨が止む気配は無かった。
「これで本当によかったのか?」
長い沈黙を破って京子に話しかけると、京子はこちらを見ずに口を開く。
「そーねー。相合傘なんてお膳立てしたんだからシチュエーションとしては上出来じゃないかしら」
京子の上辺だけの言葉に俺は眉を寄せた。
「いや、そういうことじゃなくてだな」
「隆也帰るわよ」
俺の言葉尻にやや被るように京子が言う。
何としても、弱音は吐きたくないらしい。
俺は1つ、ため息をついた。
「……お前の傘は。本当は置き傘してるだろ」
「要らない。隆也使う?」
「女物の傘なんか一人で使えるわけねぇだろ」
「……それもそうか」
余裕の無さから馬鹿なことを言った自覚をしたのか、京子は薄く自嘲の笑みを浮かべた。
そして、そのまま濡れることを躊躇わず、外に出て歩きだす。
俺もその後をそっとついていく。
雨に濡れたところから服がベトベトと体にまとわりついて気持ち悪い。
大体の人は帰ってしまい、人気のなくなった校門で、京子は真上を見上げた。
「たまーにさ。空はあたしの代わりに泣いてくれてるんじゃないかなーって思うことがあるんだよねー」
言葉の真意が読み取れず、俺はただ続くであろう言葉を待つ。
「空が泣いてくれるからあたしは笑える。だから、隆也もあたしのこと心配しなくていいんだよ?」
そう言いながら振り向いた京子は確かに笑っていた。
顔が濡れてるのは雨なのか涙なのかも分からない。
けれど、目元に溜まった堪えている涙は見てとれた。
「心配なんかしてねーよ。ただムカつくだけだ」
俺はただ、そうヤケクソに言葉をぶつけることしかできない。
それが……なぜか異様に悔しく感じた。
「ムカつくって……それはそれでなんか失礼ね」
俺の言葉に京子がムッと顔を顰める。
「お前が俺の前で素直に泣かないからだろ」
「隆也どーしたのさ。いつものことでしょ。最近おかしいよ?」
京子の言葉に、本当にどうしたのか自分でも自分を問い質したいと思う。
ただ、勝手に言葉が吐き出される。
「いつものことってのがムカつくんだよ。そろそろ俺の前だけでも素直になれ」
「えー。やだよー」
頑なに首を横に振る京子の姿に、俺の中で何かが切れる音がした。
「決めた。絶対素直にさせてみせるからな」
そう、京子を指さして宣言すると、京子は挑発するように笑みを浮かべた。
「ふーん。できるもんならやってみなさいよ。楽しみにしてるから」
雨脚が少しだけ弱くなる。
これは終わりではなく、始まりの合図だった。


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