猪突猛進ハリネズミ - 私空模様。-2話-
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私空模様。-2話- 

梅雨2




翌朝。

教室に向かう途中で後ろから肩を叩かれる。
「隆也おはようさん」
振り返ると人懐っこい笑顔を浮かべて挨拶をする雪がいた。
俺もつられて笑顔になって挨拶をする。
「ああ、おはよう」
これはいつもと変わらない俺達の日常。
けれど、雪は首を傾げた。
「んん?なんか隆也いつもより暗くねぇか?」
変に鋭い雪の言葉にドキリとしながら、表面上には出さないように努める。
「悪かったないつも暗くて」
皮肉めいた俺の言葉に雪は慌てて手を振った。
「いや、悪りぃ。そういうつもりで言ったんじゃなかったんだけどな」
「えっと……」と言葉を探す雪に自然と笑みがこぼれる。
「心配してくれてるってちゃんと分かってるよ」
そう言えば雪は安心したように笑った。
「さっすが嘘発見機ー」
ふざけるように俺を褒める雪に目を細める。
いつもならここで嘘発見器なんかじゃないと反論するのだが、今日はそれをしない。
「……雪、今日空いてるか?」
俺の問いかけに雪は目を丸くしてパチパチと瞬きをする。
「お?ツッコミ無し?ってか隆也からのお誘いは珍しいな。やっぱどっか悪いのか?」
本当に心配し始めた雪を横目に俺は教室への歩みを再開した。
雪も慌てて俺についてくる。
「空いてるか空いてないかどっちだ」
余計なことは聞いて欲しくなくて、ぶっきらぼうな言い方になってしまう。
けれど、雪はそんなこと気にしていない様子だった。
「空いてるよー?ってか隆也のお誘いなら用事があっても空けるけどな」
少しオーバーな返答に呆れて冷ややかな視線を送る。
「嘘つくな。そんなんだから京子と花音ちゃんにホモホモ言われるんだ」
「おぉ、それは嫌だな。うん。自重しよう」
わざとおおげさに首を縦に振る雪が自重する気などないことを俺は知っている。
けれど、そうやってふざけれることが楽しいのは俺も同じなのでそれ以上は特に何も言わない。
それよりも、前から気になっていたことが頭の中でぐるぐるして気持ち悪くて、ずっと聞けずにいた疑問を問いかけた。
「……雪は花音ちゃんのどこが好きなんだ?」
俺の言葉を聞いた雪が大げさなくらいに体を跳ねさせる。
「うぇ!?ななな、何言ってんだ!?お、おれは別に」
そんなに吃りながらでも誤魔化せる気でいるのだろうか。
「今更隠しても意味はないぞ」
呆れつつもツッコめば雪は気恥しそうに頭を掻いた。
「さすが嘘発見機。侮り難し」
「俺じゃなくてもバレバレだがな」
「え?マジで?」
驚きの声をあげる雪に、そんなに素直な反応をしているのにどうしてバレてないと思っていたのかと、問いかけたくなるのをグッと堪えた。
「京子も気付いてるよ」
「京子さんにもかよ!くっそ、恥ずかしいな」
言いながら雪は赤く染まった顔を自身の手のひらで隠す。
「本人は気付いてないだけマシだろう」
雪の様子を見ていると、胸の中で燻る感情があるのだが、俺はまだその感情の名前が分からない。
「それで、どこが好きなんだ?」
俺は解答を早く知りたくて、雪を促した。
俺のそんな様子に何か思ったのか、雪の表情が真剣なものになる。
「……なんていうのかな。守ってあげたくなるんだよな。弱いなりに頑張ってるとことかさ」
雪の言葉に違和感を感じて、俺は思ったままに言葉を紡ぐ。
「……京子も弱いだろ。京子を守ってあげようとはならなかったのか?」
俺の言葉に雪もまた、不思議そうな顔をする。
「京子さんは強いじゃん。泣くことも怒ることもなくてさ。京子さんはどっちかっていうと憧れだな」
「……そうか雪にはそう見えるんだな」
俺と雪はそれぞれ京子の別の面を見ているのだと、分かっていたはずなのに理解できていなかったことに気付いて、俺は一人納得する。
対して雪は考えるように空中を見上げた。
「んー。逆に隆也にとって京子さんは弱い人なのか。そんでもって守りたい対象なんだ」
「……は?」
雪の言葉に頭が揺さぶられて、思わず聞き返してしまう。
「ん?違うの?おれにはそう聞こえたんだけど」
京子や雪、花音ちゃんの気持ちしか考えてこなかった俺の中で燻っている感情が一気に激しくなり、胸を叩く。
この感情の名前を知ってしまったらもう戻れない。そんな気がして、気付かないフリをすることにした。
「………知らねぇよ。とりあえず今日の放課後、京子と花音ちゃんと一緒に出かけるからな」
無理矢理に話題を戻すと雪は穏やかに笑って頷いた。

********

「かーのーんーちゃーん!おっはよー!」
登校時の待ち合わせ場所で、あたしは自分より少しだけ背の低い後ろ姿に思いっきり抱きついた。
腕の中の花音ちゃんは驚いたように体を震わせた後、ゆっくりとあたしの方へと振り向く。
「京子さんおはようです」
いつものように穏やかに彼女が笑うと花の香りが鼻をくすぐった。
「今日も相変わらず可愛いわね。こんちくしょう」
今日も今日とて、あたしの親友は文句のつけどころがないくらいに本当に可愛い。
「いやいや、京子さんの方が可愛いですから」
嫌味ではなく、本気でそう思っていることを知っているけれど、その言葉は鈍くあたしの心に突き刺さる。
本当にそうだったらなんて有り得もしないことを叫ぶ自分から目を逸らして、精一杯に笑ってみせた。
「もう!そんな可愛いこと言ってくれる花音ちゃんにはちょっとしたプレゼントをやろうではないか!」
「プレゼント、ですか?」
不思議そうな顔をする花音ちゃんの耳元にそっと口を近付ける。
「今日の放課後、雪さんと二人っきりにしてあげる」
そう囁いて、離れてみると花音ちゃんの顔は赤く染まっていた。
「や、そんな急に無理ですよ!緊張しちゃいます!」
慌てて否定しだす花音ちゃんを無視してあたしが学校への道を歩き始めると、花音ちゃんもすぐに歩き出す。
今までは花音ちゃんが言う通り、あと一歩のところで怖気付いちゃって、それを呆れつつも良しと思っているあたしがどこかにいた。
「まあ、今までそうだったしね……ってことで事前に教えといたんだからね。今日しくじったら罰ゲームよ。罰ゲーム」
でも、そんな状態には疲れてしまったから止めると昨日決めたあたしはいつもと違って意地悪く笑ってみせた。
「京子さんの罰ゲームって嫌な予感しかしないんですが……」
罰ゲームと言われて何を想像したのか、本当に嫌そうな顔をする花音ちゃんがとても可愛く感じる。
「ふふふー。ちょっとは危機感もてた?」
「かなりもちました……」
その言葉に安堵と少しの敵意が入り乱れる。
「それはよかった。そろそろ見てて焦れったくてさー。口出ししちゃう寸前だったんだよねー」
不安定なあたしは嘘と本音がぐちゃぐちゃになった言葉を零した。
あたしのそんな様子に気付かずに花音ちゃんはただ慌てる。
「え!?や!だって!二人っきりになると……その……言葉が、出てこなくなるんです……」
そう言った彼女は弱々しく俯く。
「私も京子さんみたいに美人で強くなれたら、自信を持って雪さんと話せるようになれるんでしょうか……」
そんな弱音を吐く姿に少し悲しくなりつつも、優しく背中を叩いた。
「花音ちゃんはそのままで充分可愛いから大丈夫。後はほんの少し勇気を出すのを頑張りなさい。分かった?」
そう問いかけると花音ちゃんはグッと拳を握ってみせる。
「……頑張りますっ」
そう意気込んで答えてみせる姿に、素直で可愛いこの親友をどうしたって嫌いになれるわけがないんだと、あたしは1人実感した。


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