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梅雨1-これは空が見守る恋のお話ー 俺は人の感情にはかなり敏感な方で、人が必死に隠してる感情とかにも気付き、つい気にかけてしまう。 俺が幼馴染みの京子を気にかけてしまうのはきっとそのせいだ。 ずっとそんな風に思っていたから、こんな質問がさらっと言えたんだと今になって思う。 「京子。お前、雪のことが好きなのか?」 放課後、六花学園高等部二年生の教室で夕暮れに照らされる中、切ない視線で窓の外を見る京子に声をかけた。 京子が振り返ると、ポニーテールにしている長い紺の髪がふわりと舞う。 その奥で京子の微かに見開かれた瞳が揺らいだ。 「…はぁ?何言ってんの。そんなわけないでしょ。びっくりさせないでよ」 そう言って微笑む京子を見たら誰も嘘だとは思わないだろう。彼女は感情を隠す嘘が上手い。 昔、どこかで聞いた「隠したいことがある時は半分は真実を言い、半分は虚実を言うとバレない」という言葉があったが、京子は真実と虚実のバランスをとることが自然とできる。 今も驚いた真実を話し、本心を巧みに奥底へと隠した。 俺は1つ溜息をついて、京子をまっすぐ見つめる。 「俺は冗談でこんなこと言わないし、隠してもバレバレだ」 わざわざ言わなくても京子もバレていることなど分かっていると思うが、それでも言ってしまうのはただのお節介だろうか。 「……うーん。あたしって感情隠すの上手い方だと思うんだけどな………昔から隆也だけにはバレちゃう」 気まずそうに笑う京子に『どうせ俺にはバレるんだから感情を隠すことなんて止めろ』と、口にしかけた言葉は何故か発することができなかった。 「分かるに決まってるだろ。俺を誰だと思ってるんだ」 代わりにつまらない競争心から言葉が出る。 そして、競争心を誰に抱いたのかは自分で気付かないフリをした。 そんな俺の様子なんて知らずに京子は意地悪な笑みを浮かべる。 「はいはい。自称嘘発見機の隆也様ですねー」 軽口をたたいて笑う京子の姿に自然と心が落ち着いた。 「誰もそんなもの自称なんかしてないし。呼んでるのお前だけだからな」 俺が呆れた風に返せば京子は楽しそうに微笑む。 「雪さんも花音ちゃんも呼んでるもーん」 「あいつらはお前が呼ぶから呼んでるだけだろ。それにあいつらは裏表がないから意味がない」 そこまで言ったところで京子の顔から笑顔が消えたことに気付く。 顔は笑ったまま、だけども泣きそうな様子の京子に失言してしまったことを察した。 俺は人の感情を見抜くのは得意だが、如何せん口下手で上手くフォローすることはできない。 自分の失言をどう取り返すか考えても上手く言葉にできなくて開いた口からは音が発せなかった。 そんな俺に気付いた京子は首を傾げておどけてみせる。 「うーん。やっぱ隆也から見ても裏表ないよねー」 そう自分で地雷を踏んでいく京子を見てられないが自分の失言が招いたことだ。 「あいつらは感情をそのまま外に出せるやつらだからな。……雪の裏に期待しても答えは変わんねーよ」 俺は京子から目を逸らさずに引導を渡した。 雪の態度の裏に京子を想っていることはない。 それは俺も京子も分かりきっていたこと。それを言葉にすることでほんの少しだけあっただろう京子の中の期待は散り散りになって消える。 「……また考えてることバレた」 強がって笑っていても、やはり堪えているのだろう。 京子は近くにあった机に腰掛け、前髪を弄るフリをして目尻に溜まった小さい粒を拭う。 その様子を見てはいけないような気がして視線を京子から逸らした。 窓の外の空は綺麗だった夕焼けから夜に移り変わる為にグラデーションを描いていた。 「お前は分かりにくそうに見えて分かりやすいからな」 「うーん。そうなのかー。バレるの隆也だけなんだけどなー。まだまだ改善しなきゃ」 沈黙にならないように何となく思ったことを言って、返ってきた言葉に言い知れない感情を抱く。 「…………改善なんてしなくていいだろ」 自然と出た言葉に京子は首を傾げる。 「え?なんで?」 本当に分からないと伝わる素っ頓狂な声に怒りが込み上げた。 思わず近くにあった机に拳を殴るように叩きつける。 突然のことに京子の体がピクッと跳ねた。 「……っ!なんでって!改善して!俺でさえお前のことが分からなくなったらっ!お前はどうなるんだよ!」 思うままを吐き出すように叫ぶ。 そんな俺の頬を、少し震える手の平が包んだ。 「隆也どうしたのさ。急に声荒げたりして……ちょっと怖いよ」 あくまでも宥めるような優しい声で、それでも最後に少し漏れた本心の言葉に頭が冷える。 -どうして俺はこんなにも怒っていた……? 考えても自分が分からない。 「……ごめん。なんでもない」 そう言って頬に添えられた手をそっと外すことしか俺はできなかった。 気まずい空気が俺と京子を包む。 しばらくして、京子が静かに口を開いた。 「……隆也にさ。相談なんだけど」 「……なんだよ」 あまりよろしくない言葉が続く予感がして、ぶっきらぼうに返事を返す。 それでも構わずに京子は言葉を続けた。 「んとね。雪さんと花音ちゃん。いっそのことくっつけちゃおうよ」 その内容はやはりよろしいとは言い難いもので、良くない予感ほど当たるものだと、俺は1つため息をついた。 「お前はそれでいいのかよ」 ジッと京子の様子を逃さないように見つめながら、問いかける。 「……このまま焦れったい二人を見るよりは諦めつくからさ」 切なげに伏せられる睫毛にその言葉は偽りでないことを察した。 「分かった。ただ、一人では泣くなよ」 そう注意して京子の頭をぐしゃぐしゃにしてやる。 それに「痛い痛い」と言いながら京子は俺の手をどけると、髪を直しながら小さく笑い声をあげた。 「はぁーい。泣いたりなんかしないけど返事だけはしといてあげる」 京子は不敵な笑みを浮かべて暗くなりつつある窓の外を見やった。 「……んじゃ明日の放課後あたりにでもきっかけ作ってやるかぁ」 明るく振る舞う京子が逆に痛々しかったが、俺は何も言えずに頷くだけしかできなかった。
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